欲しいミライを、
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iPhoneが蛍になった日

posted: 2014.06.13

平日の長距離移動は背徳心を伴う。

社会人なら仕事、学生なら学校、主婦なら家事という「やらなければいけないこと」を犠牲にしてその時間を「移動」にあてる。

「移動距離とクリエティビティは比例する」と誰がかが言ったが、
「孤独とクリエイティビティも比例する」と付け加えたい。

東京都心から約5時間。
福岡県は最東端のこの町で、友枝川の上流に位置する築100年の古民家「雁股庵」に単身滞在しに来た。
携帯電話も圏外の山奥だ。
目的は蛍をレンズに納めるため。
「山の神」という神々しい地名を持つ沢の中でひとり、カメラをかまえる。

私の本業は企画や編集、デザインなのでこうやってカメラをかまえることは「趣味」といえるかもしれない。

だけど、いつも過ごしている場所と距離をとっているのと同じように、この町では「やらなければいけないこと」からほんの少し距離を置いて、「やりたいこと」に心を寄せる。

山道でふいに出会う鹿や、草むらにひそむマムシに気をつけながら、森の中へ入る。
目指すは清流のイルミネーション。
ぽぅ、ぽぅ、と灯る蛍の呼吸に息を合わす。
少しでも、人間の私が蛍に近づけるよう、ふぅ、ふぅ、と胸を膨らます。

蛍を撮り始めて4日目、本日山に入って3時間。
一瞬の無風、つかの間の休息を葉の上でとる蛍をレンズに納めることができた。
やっと、少しだけ蛍に近づけたような気がする。

ほかの蛍たちも熱狂の乱舞を終えたのか、次々に休み始めた。
蛍たちの賑やかな時間が過ぎ、山を後にする。
レインスーツのポケットに手を入れると……ない。
iPhoneがない。

「落とした」

焦っても仕方ないと思いつつ、撮り歩いた場所を3、4往復してもみつからない。
明日、明るくなってから探そうと諦めたとき、びしょ濡れになったiPhoneが山道に落ちていた。
不思議に思いつつ、iPhoneとの再会を喜んで雁股庵へ帰る。

 

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iPhoneをドライヤーで乾かし、祈る気持ちで仏壇に飾る。

夜中、ふと目が覚めると仏壇の方がぽぅ、ぽぅ、と光っている。

何事かと恐る恐る近づき、仏壇を覗くと私のiPhoneが白い光を放っていた。
真っ白い画面になって、呼吸するように、ぽぅ、ぽぅ、ぽぅ。

私のiPhoneが、蛍になっちゃった。

そう思ってクスッと笑うと、瞬き終えた蛍と同じく、光ることを止めて、iPhoneはそれから動かなくなった。

上毛町の山奥でおこった、嘘のようなホントの出来事。

(しばらくデフォルトで圏外の、コヤナギユウ)